基礎編1. 接合面を考える
JIGTHINKを実践するにあたり、まずは “接合面を考える” ことを体験してみましょう。
接合面とは何か
仕事がうまく進まない原因は、必ずしも「タスクそのものをうまく進められないこと」だけではありません。むしろ、「そのタスクの結果を、他の人がうまく使えないこと」が原因で、やり直しが発生したり、後の工程で問題が見つかったりすることがよくあります。
では、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。多くの場合、タスクそのものが特別むずかしいわけではありません。本来求められていることを依頼内容から正しく汲み取れていなかったり、タスクの結果が、必要としている人にとって使いにくい形になっていたりするためです。つまり、タスクそのものではなく、タスク同士をつなぐ「間」の部分に問題があることが多いのです。
JIGTHINKでは、この「タスク同士の間」の部分を「接合面」と呼びます。接合面とは、さまざまな作業のあいだにある「境目」のことです。ジグソーパズルのピースに凹凸があるように、仕事にも「渡すときの形」と「受け取るときの形」があります。
たとえば、「何を、どのような状態で求めているのか」「何を、どのような形で渡しているのか」といった観点で考えられる部分です。
接合面の具体例
接合面の具体例には以下のようなものがあります。
具体例1:依頼者から伝えるべきこと
- 成果に必須の内容(調査が必須の項目、成果に含めるべき項目の事前確認など)
- 成果の形・形式に関する取り決め(先方に提示するために PDFファイル、社内で別途修正を入れるので PowerPoint 形式のファイル、など)
- 締め切りと優先度に関する情報(いつまでに、どのくらい重要か、定期報告の必要性など)
- おおよその分量・深さ(ざっくりでいいのか、細かく調べるのか)
具体例2:タスクの目的・前提条件
- 「この仕事を何のためにやるのか?」を作業前に把握すること
- 目的から見て、本来必要な要素が抜け落ちていないかを作業者側でも確認する
- タスクを始めるための前提条件が作業者・依頼者で共有されているか
- 自分の責任範疇で可能な範囲の作業か?(権限がある人に許可を取っているか?)
具体例3:成果を使う人の目線になっているか
- 誰がこの成果を使うのか?(上司/同僚/別部署/顧客など)
- その人はどこまで詳しい前提か?(専門用語を知っているかなど)
- 必要な精度はどのくらいか?(ざっくりでよいのか、誤解を招かない粒度の情報まで必要か)
具体例4:タスクの完了条件
- 「ここまでできていれば完了」と言える明確なゴールがあるか?(資料を作成後、依頼者に提出で完了、など)
- 完了後にどのような扱いをされるのか?(資料を作成したのでそれがそのまま先方まで提出される、など)
具体的なシナリオ
次に、具体的なシナリオを通して複数の接合面があることを認識してみましょう。
シナリオ1:あるマーケティング担当者の事例
失敗事例
あなたは家電メーカーのマーケティング担当者です。
新商品キャンペーンのために、営業部門から「新商品の資料を作ってほしい」と依頼されました。
その依頼を受けて、あなたは「新商品そのものを強くアピールすること」が大事だと考えました。
そこで、新商品と、その1つ前・2つ前の型番の製品について、機能や性能を比較した表を作成し、
- どの機能が強化されたか
- 新機能でどのようなことができるようになったか
といった点に力を入れて、Excel ファイルで営業部に提出しました。
ところが、その資料を見た営業担当者から連絡が来ます。
「この資料は店頭で印刷して、お客様に直接お渡ししたいんです。
お客様に視覚的にアピールしたいので、カラーのチラシのような形式がよかったです。
いまのものだと、イメージしていたものと全く違うので、作り直しをお願いできますか?」
せっかく時間をかけて作ったのに、最初からやり直しになってしまいました。
何が悪かったのか?
営業部門(依頼者)からは、「新商品の資料を作成してほしい」というざっくりした依頼しか受けていませんでした。
その上で、依頼者に確認をすることなく「新商品そのものを強くアピールすること」が目的であると考えて、いきなり作業を始めてしまいました。
これは、まさに接合面をお互いに意識しておらず、成果物がうまくかみ合わなかったパターンです。
具体例1:依頼者から伝えるべきこと
- 「店頭でお客様に配るチラシとして使いたい」
- 「カラーで印刷して、ぱっと見で魅力が伝わるものがほしい」
といった情報が共有されていなかったため、「どんな成果を」「どんな形で」求めているのかがズレていました。
具体例2:タスクの目的・前提条件
- 営業側の目的は「新商品の良さを、店頭でお客様に直感的に伝えること」でしたが、あなたは「新商品がどれだけ進化したかをアピールするための比較資料」として理解していました
- 「新商品キャンペーンで何をしたいのか?」という目的の前提が共有されていませんでした
具体例3:成果を使う人の目線
- 実際には「一般のお客様」が成果の利用者でした
- しかし、作成されたものは「社内の営業担当者が読むための比較表」に近く、「お客様に視覚で訴えたい」という用途から見ると、表だけでは視覚的な訴求力が弱く、作業のやり直しになりました
本来どうするべきだったのか?
あなたが仕事を受ける側として、タスクに着手する前の「接合面」を整える必要がありました。
たとえば依頼を受けたときに、次のような会話をしておくことが考えられます。
依頼内容の接合面(具体例1)
- 「この資料は、どの場面で使う予定ですか?」
- 「お客様向けですか? それとも社内向けですか?」
- 「形式はどうしましょうか? チラシのようなレイアウトがよいですか?」
目的・前提条件の接合面(具体例2)
- 「今回の新商品キャンペーンでは、何を一番伝えたいですか?」
- 「お客様にどんな行動をとってほしいイメージでしょうか?(来店・問い合わせ・即購入 など)」
利用者目線の接合面(具体例3)
- 「この資料を見るのは、どんなお客様を想定していますか?(年齢層・家族構成など)」
- 「数字の細かさよりも、イメージ重視のほうがよいですか?」
こうしたやり取りを通して、
- 店頭で配るお客様向けのカラー1枚チラシ
- 旧商品との比較は「細かい表」ではなく、「3つのポイント」程度に整理
- 写真やアイコンを使って、視覚的に魅力が伝わる構成
といった「ゴールのイメージ」を依頼者と共有できていれば、接合面はかなり整えられていたと言えます。
成功事例
同じ状況で、あなたが接合面を意識して行動した場合を考えてみましょう。
営業部門から「新商品の資料を作ってほしい」と依頼されたとき、あなたはこう聞き返します。
「この資料は、どこで、誰に向けて使う想定でしょうか?」
営業担当者からは、こんな答えが返ってきます。
「家電量販店の店頭で、お客様に直接お渡ししたいんです。
主なターゲットは共働きの30〜40代の夫婦で、家事を時短したい人たちですね。
新機能の『時短』『省エネ』が一目でわかるようにしたいです」
さらに、形式についても確認します。
「それであれば、A4サイズのカラー1枚チラシはいかがでしょうか?
写真とイラストを使って、『3つのおすすめポイント』に絞って構成してもよいですか?」
営業担当者も、それがイメージに近いと分かり、こう返します。
「それでお願いします!
表面はイメージ重視、裏面に簡単な仕様と旧モデルとの違いを入れてもらえると助かります。
印刷はこちらでしますが、別の店舗でも数字を変えて使う可能性があるので、PowerPointファイルでお願いします」
こうして、
- タスクの目的:
「店頭で、お客様に新商品の魅力を直感的に伝えるためのチラシを作る」 - 利用者:
「家電量販店を訪れたお客様」の利用がメインだが、「店頭スタッフ」が補助的に利用する - 成果物の形式:
「A4カラー両面のチラシ案(PowerPoint 形式で納品)」 - 完了条件:
「店頭でそのまま印刷して配布できるレイアウトが整っていること」
といった接合面が明確になりました。
あなたはこの前提に沿って、
- 写真とキャッチコピーで「一目で分かる強み」を強調
- 裏面に簡潔な比較表と「買い替えのメリット」を記載
- PowerPoint 形式で、店舗ごとに価格やキャンペーン情報を書き換えられるようにして納品
という構成で資料を作成します。
営業担当者は納品された資料を見てすぐに、
「イメージ通りです! 店頭でそのまま使います。ありがとうございます!」
と返答し、そのまま印刷して各店舗で活用することができました。